親権者を決めなければ離婚できない
婚姻中は夫婦が共同して親権を持っていましたが、離婚をする際は、親権者をどちらか一方に定めなければなりません。離婚届にも親権者について記入する欄がありますので、離婚前にどちらが親権者となるかを決めておかなければならず、ここが空白のままでは離婚届も受け付けてもらえません。なお、未成年の子供が複数いる場合は、それぞれについて親権者を決めます。
未成年者は一人では法律行為をすることができず、その際には法定代理人の同意が必要です。婚姻中は夫婦ともに親権者として法定代理人になることができますが、離婚をするときにはどちらが親権者=法定代理人になるかを決めておかないと世間一般も大変困ってしまいます。
親権者を決めておかなければ離婚できないからといって、とりあえずどちらか一方を親権者とし、離婚後に改めて親権者について話し合おう、と考えるのは望ましくありません。なぜなら離婚後の親権者の変更は家庭裁判所の許可が必要であり、相当の理由がなければ認められないからです。ころころ親権者が代わっては子供の福祉にとっても望ましくありません。したがって、親権者を決めるのはぜひ慎重に行っていただきたいものです。
親権の中身
親権には身上監護権と財産管理権の2つがあります。
身上監護権 | ・子供の身の回りの世話を行う ・子供が悪いことをした際に、必要の範囲内で叱ったり罰したりする権利(懲戒権) ・教育を受けさせる ・子供の住む場所を指定する(居所指定権) ・子供が職業に就くことを許可する権利(職業許可権) ・認知の訴え、15歳未満の子の氏の変更、相続の承認・放棄等、特別な身分行為を子供に代わって行うことができる権利(身分上の行為の代理権) |
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財産管理権 | ・子供名義の財産を管理する ・財産に関する法律行為を子供に代わって行う |
通常は上の2つをひっくるめて親権者と定めることが一般的ですが、なかには身上監護権の中の養育に関する部分を切り離し、親権者とは別に監護者を定める場合もあります。
親権者と監護者
前述しておりますとおり、親権者とは別に監護者を定めることもできます(民法766条1項)。一般的なのは、どちらか一方が親権者となり上に述べた2つの権利・義務を子供に対して保有することになりますが、なかには、親権者となっても子供と一緒には暮さず、監護者が子供と一緒に暮して、日常の子供に対する世話・しつけ等は監護者が行うという場合もあります。
上で述べたように、親権には身上監護権と財産管理権の2つがありますが、一般的にいう「親権が欲しい」というのは、子供の財産を管理したいというよりも、子供と一緒に暮らしたいという意味を含んでいることが多いと思われます。この場合は、上の2つの権利を分けることなく、2つの権利を一体として話し合っていることがほとんどだと思われます。
子供と一緒に暮らすだけなら「監護者」でよい
親権者を決めなければ離婚できませんが、監護者を決めなくても離婚はできます(離婚届に監護者について記入する必要はありません)。子供の親権者になりたい、子供と一緒に暮らしたいと思っても、親権者になれないこともあります。しかし、ここであきらめる必要はありません。
「私と一緒に暮らした方が絶対子供は幸せに違いない」という状況にあるときは、親権者になれそうにない(あるいはなれなかった、ならなかった)場合は、監護者の指定を求めることができます。まずは夫婦の話し合いで決めますが、話し合いが整わない場合は家庭裁判所に申し立てて決めてもらうことができます。
監護者は、日常的な子供の世話・養育のほかに、そのために必要であれば、居所の指定(下宿・入寮の許可等)や職業許可(アルバイト、就職等)、懲戒(しつけとして子供に罰等を与える)権等が認められております(民法821条~823条)。
ただし、親権者と監護者を分けるケースは稀であり、親権者と監護者とが対立すると子供に悪影響を及ぼしかねないので、家庭裁判所においても監護者の指定は非常に稀です。親権を分ける場合は、どうしても決められない場合の最終的な解決案として考えましょう。
監護者は第三者がなってもよい
監護者は、父母以外の第三者になってもらうことができます。親権者は父母どちらか一方がなったとしても、何らかの理由で子供の世話ができない場合は、夫婦の話し合い、もしくはそれができない場合には家庭裁判所の審判によって第三者に監護を委託するのです。第三者は、父または母の親兄弟・親戚のような個人のほかに、託児所等のような児童福祉施設である場合もあります。
親権者と監護者に分ける場合の注意点
戸籍には親権者の名前しか記載されないので、監護者を定めた場合には、離婚協議書や公正証書等の書面に残しておくことが大切です。書面に残さなければ何も証拠が残りません。
監護者は子供と一緒に暮らして子供の日常的な面倒を見ることができますが、その一方でできないこともあります。例えば子供の戸籍や姓を変えたい場合等です。子供が15歳未満の場合は、子供だけでそれらの手続きを行うことができず、その際には親権者の協力が必要になってきます。親権者と監護者に分ける場合は、お互いにそれぞれの役割を事前に確認しておかなければなりません。
親権者の役割 | ・子供の財産を管理する ・子供に代わり法律行為・法的手続きを行う ・養育費を払う ・面会交流する |
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監護者の役割 | ・子供と同居し子供の世話をする ・居所を指定できる ・職業に就く際の許可を与える ・必要な範囲内で子供に罰等を与える |
子供が複数いる場合
未成年の子供が複数いる場合は、基本的にはどちらか一方の親がすべての子供の親権者となり、兄弟姉妹まとめて一緒に暮らすことが望ましいと考えられますが、子供や親の年齢やさまざまな事情等によって親権者が父と母別々になり、別れて引き取られるケースもあります。
親権者が違っても、前述しておりますとおり、監護者を定めることによって一緒に住むことは可能ですので、よく話し合って決めたいものです。